水田が広がる田舎の風景

皆さんは、昆虫といえばどんな虫を思い浮かべるでしょうか?

カブトムシ・オニヤンマ・カマキリなどでしょうか?多くの方が思い浮かべる昆虫といえば、森や草原などの陸上に生息する種類が多いと思います。

しかし、昆虫の中には、水の中や水の上で暮らすように進化した仲間もいます。

例えば、アメンボやゲンゴロウ、タガメや、トンボのこどもであるヤゴなど、外見も暮らし方も多種多様です。この記事では、水辺での暮らしにぴったりな姿に進化したおどろくべき特徴をもつ、水生昆虫をご紹介します。

昆虫たちが暮らす水辺の種類

田園が広がる田舎の風景

一口に「水辺」と言っても、いくつかの種類があり、どういう水辺にどの昆虫がくらすかは決まっています。

水が濁っているか澄んでいるか、流れているか止まっているかといったことが、えさの採り方や卵の産み方など、その昆虫の暮らしに大きく関わっているからです。

1.田んぼや池にすむ昆虫

水を入れた後の田んぼや農業用のため池、自然の池などには、流れがあまりなく、濁った水に暮らす昆虫たちが暮らしています。

アメンボ、ゲンゴロウ、ミズスマシ、ガムシ、タイコウチ、ミズカマキリ、タガメ、コオイムシ、マツモムシ、ヤゴ(トンボの幼虫)、ボウフラ(蚊の幼虫)などが、そういった環境で生息しています。

2.川にすむ昆虫

川には、流れる水の中で流されることなく暮らすことができる昆虫が暮らしています。川の深さや、上流か下流かなどで、暮らしている昆虫は異なります。

アメンボ、ヤゴ(トンボの幼虫)、カワムカデ(ヘビトンボの幼虫)、ホタルの幼虫、カゲロウの幼虫、カワゲラの幼虫、トビケラの幼虫などは、川で生息しています。

3.海にすむ昆虫

塩分が高く潮の流れがある海は、昆虫の暮らしには向いておらず、海にすむ昆虫はほとんどいません。

唯一、ウミアメンボの仲間だけが海面で生活します。種によっては陸地から離れた遠洋で暮らすものもあり、魚の死骸などを食べているようです。

今回の記事では、このウミアメンボには触れていませんが、海に住む昆虫がいるということは知っておいてくださいね!

水辺で暮らす期間ごとに昆虫を紹介

 水にすむ昆虫の中には、卵で生まれてから成虫になるまでずっと水の中や水の周囲で暮らすものと、幼虫の間だけなど限られた期間だけ水の中で暮らすものがいます。

幼虫のときだけ水で暮らす昆虫は、成虫になると羽をもち、交尾の相手を探して飛び回り、受精すると水の中や水の近くに卵を産みます。卵がかえると、幼虫は水の中に入り、生活するようになるのです。

一生を水辺で暮らす昆虫を「真水生昆虫」と呼ぶこともあり、甲虫の仲間(ゲンゴロウ、ミズスマシ、ガムシなど)とカメムシの仲間(アメンボ、タイコウチ、ミズカマキリ、タガメ、コオイムシ、マツモムシなど)がほとんどです。

一生を水辺で暮らす昆虫 甲虫の仲間3種

それでは、一生を水辺で暮らす昆虫のうち、甲虫の仲間を以下の3種類ご紹介いたします。

  • ゲンゴロウ
  • ガムシ
  • ミズスマシ

幻の水生昆虫ゲンゴロウ 水生甲虫類の最大種

ゲンゴロウの画像

ゲンゴロウは、タガメなどとともに絶滅の危機にさらされている水生昆虫です。

日本国内には、130種類以上もの種が生息していますが、ここでは一般的にゲンゴロウと呼ばれるオオゲンゴロウについてお話しします。

ゲンゴロウは体長35~40mmほどのかたい体をもつ甲虫の仲間で、鮮やかな緑色に黄色い縁取りのある丸っこい外見が特徴です。

水にすむ昆虫の中ではかなり大きい方で、よく目立ちます。後ろあしの先が泳ぎに適した形になっていて、平泳ぎのように両足を同時に動かして細かい毛で水をかき、とても速く泳ぐことができます。

肉食で、水の中の虫などを捕らえて食べます。ときには小さな魚やオタマジャクシを食べることもあります。

かつては、水田でよく見られる昆虫でしたが、農薬の使用や水路のコンクリート化などで急速に数を減らし、日本全国で絶滅が心配されています。

ゲンゴロウの成長

幼虫は細長い姿をしていて、「田んぼのムカデ」などとよばれて大きなあごで獲物にかみつきます。あごからは消化液を流し込み、獲物を麻痺させることができます。

成長すると、土の中でさなぎになり、羽化して成虫になるとまた水の中にくらします。

ゲンゴロウの生息地

水田や池など、流れない水のあるところにすみます。

ゲンゴロウの呼吸の仕方

水の中で呼吸することはできないので、水面におしり(腹部の先端)をつきだし、空気を取り入れて羽の下にためておきます。これにより、長い間水中で活動することができます。

ゲンゴロウの種類

非常に多くの種が知られており、日本だけでも130種以上います。

よく知られているゲンゴロウ(オオゲンゴロウ・ナミゲンゴロウ・タダゲンゴロウなどと呼ばれる種)が最大の種で、ほとんどの種ずっと小さく、体長が1mmしかないものもいます。水田や池などにすむものが多いですが、流れがゆるやかな川にすむ種類もいます。

ゲンゴロウに関する動画

当サイト管理人の私が、田舎の用水路に水生昆虫調査に行った際に、環境省によって絶滅危惧種Ⅱ類に指定されているコガタノゲンゴロウという種のゲンゴロウを採集することができました。

その時の、動画を2本ご紹介いたしますので、よろしかったらご視聴ください。

ゲンゴロウそっくりのガムシ!実は全く違う系統の昆虫

ガムシの画像

一見、ゲンゴロウとよく似た姿をしているガムシですが、実はゲンゴロウとは系統的に全く違う類に属する水生昆虫です。

ガムシは、体長35~40mmほどのかたい体をもつ甲虫の仲間です。

ゲンゴロウと同じような大きさで、丸っこい外見も似ているのでゲンゴロウとよく似ていますが、ガムシは全体が光沢のある真っ黒な体をしています。

また、細かい体つきやゲンゴロウとはかなりちがっていて、ゲンゴロウのように発達した後ろあしをもっていません。そのため、あしを交互に動かしてやや不器用に泳ぎます。

おなかに小さなトゲのような突起があり、これを牙に見立てて「牙虫(ガムシ)」と名づけられています。

ガムシの成虫は生きた虫や魚などを食べることはあまりなく、水草などの植物や死んだ虫などを食べます。ゲンゴロウと同じく、かつては水田でよく見られる昆虫でしたが急速に数を減らし、日本全国で絶滅が心配されています。

ガムシの成長

幼虫は細長い姿をしていて、大きなあごをもっています。成虫とちがって肉食で、おもに巻き貝などを食べます。

成長すると、土の中でさなぎになり、羽化して成虫になるとまた水の中にくらします。

ガムシの生息地

水田や池など、流れない水のあるところにすみます。

ガムシの呼吸の仕方

水の中で呼吸することはできず、水面に頭をつきだして空気を取り入れ、おなかに生えている細い毛の間にためておきます。これにより、長い間水中で活動することができます。

ガムシの種類

日本に75種ほどいます。体長数mmの小さい種が多く、川や水がしたたる岩の周囲など、さまざまなところにすむ種類がいます。

ガムシに関する動画

以前、私が田舎の用水路で水生生物観察に行った際、偶然にもガムシを確認することができました。

以下は、その時の動画です。

ミズスマシ 水面を素早く移動する水生甲虫

ミズスマシは、体長7mmくらいで、ガムシを小さくしたような真っ黒で丸っこい体つきの昆虫です。

しかし、その暮らしはガムシやゲンゴロウとは大きくちがっています。水の中にもぐるのではなく、水面に浮かんで、滑るようにすばやく移動しながら水に浮いた虫の死骸などを食べます。

こうした暮らしに適応するため、中あしと後ろあしはとても短く、ひれのような形になっており、前あしだけが長くのびています。水面と水の中を同時に見られるように、ミズスマシの目は上下で2つにわかれていて、合計4つの目があります。

ミズスマシの成長

幼虫は水の中で暮らし、水中で呼吸できるえらをもっています。細長い姿をしていて、たくさんのあしが左右に長くのび、ムカデのように見えます。肉食で、小さな昆虫を食べます。成長すると、土の中でさなぎになり、羽化して成虫になると水面に浮くようになります。

ミズスマシの生息地

水田や池など、流れない水のあるところにすみます。

ミズスマシの種類

日本に18種が知られています。体長3mmほどのものから、体長20mmにもなる大きな種までさまざまです。川にすむものもいます。

一生を水辺で暮らす昆虫 カメムシの仲間6種

一生を水辺で暮らす昆虫の甲虫に続き、次は水辺で暮らすカメムシの仲間を6種ご紹介します。

ご紹介する水生昆虫は以下の6種です。

  • アメンボ
  • タガメ
  • コオイムシ
  • ミズカマキリ
  • マツモムシ
  • ミズムシ

アメンボ 水面を自由自在に移動する水生昆虫

水面を泳ぐアメンボの画像

アメンボは、最も見つけやすい水生昆虫です。

水たまりなど、ちょっとしたところにもよくいます。体は細長い棒のようで、長細い6本のあしがつきだしています。アメンボの特徴はそのあしにあり、足の先に細かい毛が生えていて水をはじくようになっているので、水に沈むことなく、水面に浮かぶことができます。

長い足を上手く動かして、水面を滑るように自由自在に移動します。移動するときに水面に丸い波紋ができるので、アメンボがいるところは遠くから見てもすぐにわかります。

アメンボは肉食で、するどい針のような口を獲物に突き刺して体液を吸います。水に溺れた虫などがアメンボの獲物になります。

多くの種類のアメンボには羽があって飛ぶことができ、水たまりの環境が悪くなったり、アメンボが増えすぎたりすると、空を飛んで別の水辺に移動します。

アメンボの生息地

池や水たまり、田んぼなどに多くいます。種類によっては、川や、海にいるものもいます。

アメンボの種類

アメンボには多くの種類がいます。日本だけでも30種ほどが知られています。大きさもさまざまで、数mmのものから、最大のオオアメンボは30mmほどもあります。

タガメ 絶滅が危惧される日本最大級の水生昆虫

日本最大級の水生昆虫であるタガメをあらゆる角度から見たイラスト

タガメは、最大の水生昆虫です。大きさは50mm~65mmほどでメスは60mmを超える個体も珍しくなく逆にオスは50mm以下の個体が多い。

ちなみにタガメの特徴ともいえる大きな前あし、この前足の先はするどいつめが生えた鎌のようになっています。

全体的に茶色っぽく平たい体をしていて、水の中を自由に泳ぎ回り、小魚やカエルなど、自分の体より大きな獲物に襲いかかり、前あしのつめでがっちりと捕らえて針のような口を突き刺し、体液を吸い上げてしまいます。

人間が刺されるととても痛いので注意が必要です。

意外に子煩悩なことでも知られ、メスが水辺につきだしたイネの茎などに卵の塊をうみつけると、卵がふ化するまでオスが卵の近くで守り、卵がかわかないように水をかけるなどして世話をします。

他の水生昆虫と同じく、環境の変化によって激減し、絶滅が心配されています。

タガメの生息地

おもに田んぼや、水草が多く生える池にすんでいますが、最近では環境変化や水田での農薬使用などの影響で著しくその数を減らしています。

タガメの呼吸の仕方

水の中で呼吸することはできないので、おしり(腹部の先端)からのびたストローのような呼吸管を水面につきだして呼吸します。

コオイムシ オスが背中に卵を背負って卵を守る水生昆虫

木の上で休むコオイムシの画像

タガメに近い仲間で、体長は20mmほどでタガメよりもずんぐりしています。

メスがオスの背中に卵を産みつけるという変わった習性が特徴で、オスは、びっしりとならんだ卵を背負ったまま、卵がふ化するまで守り続けます。

個のコオイムシですが、地域によっては環境の変化とともに個体数が減少しており、準絶滅危惧種に指定されている地域もあります。

コオイムシの生息地

基本的には池や田んぼなどの止水にすみますが、川の流れの弱い場所にもすんでいることもあります。

ミズカマキリ

水中を泳ぐミズカマキリの画像

タガメと似た仲間ですが、ずっと細長い体をしていて、前あしの鎌も長くのびています。

「ミズカマキリ」の名前の通り、三角形の顔、前あしの鎌、細長い体など、カマキリにそっくりな特徴をもっていますが、カマキリとはまったくちがう仲間です。

狩りの仕方もカマキリに似ていて、水の中でじっと待ち伏せをして、通りがかった小魚やオタマジャクシに飛びかかり、鎌でとらえます。

口は針のようになっていて、とらえた獲物に突き刺して体液を吸います。

ミズカマキリの生息地

池や田んぼにすみます。近い仲間には、沼地にすむものもいます。

ミズカマキリの呼吸の仕方

ミズカマキリは、呼吸管がとても長いのが特徴で、細長い体の長さと同じくらいあります。これにより、呼吸管をシュノーケルのように水面に突き出しながら水中で獲物を待ち構えることができるのです。

マツモムシ 水面を背泳ぎするおもしろい水生昆虫

体長10mmちょっとの小さな昆虫ですが、水面に逆さにはりつくように、おなかを上にして背泳ぎで移動するという、非常に変わった習性が特徴です。

水に落ちた虫などに針のような口を突き刺して体液を吸います。ときどき、人間が気づかずに刺されることがあり、とても痛いので注意が必要です。

マツモムシの生息地

池や田んぼ、水たまりにすみます。

ミズムシ

体長10mmほどで、細長い体に、船のオールのように発達した前あしと後ろあしがのび、それをたくみに動かして水中を泳ぎます。

羽と体の間に空気をため、浮き輪のようにふわふわと浮かびながら泳ぎます。

ミズムシの生息地

比較的水がきれいな池や川などにすみます。

ミズムシの種類

種類が多く、日本でも30種ほどが知られています。

詳しい生態はわかっていませんが、植物を食べるものが多いようです。

幼虫の期間だけ水辺で暮らす昆虫

昆虫の中には、カブトムシのように幼虫から成虫まで一生を陸上で暮らす昆虫もいれば、トンボのように幼虫の期間だけ水辺で暮らし成虫になると陸上で暮らす昆虫もいます。

一生を水辺で暮らす昆虫の次は幼虫の期間だけ水辺で暮らす昆虫を7種ご紹介します。

ご紹介するのは以下の昆虫です。

  • ヤゴ(トンボの幼虫)
  • ボウフラ(蚊の幼虫)
  • ホタルの幼虫
  • カゲロウの幼虫
  • ヘビトンボの幼虫
  • カワゲラの幼虫
  • トビゲラの幼虫

それでは、1種類ずつみていきましょう。

トンボの幼虫ヤゴは待ち伏せ型のハンター

すべての種類のトンボが水辺で卵を産み、幼虫は水中で暮らします。

トンボの幼虫はヤゴと呼ばれ、水中にすむ肉食の生きものとしてよく知られています。トンボの種類によってヤゴの外見や大きさは少しずつ異なりますが、えらをもっていて水中で呼吸することができ、小さな虫や魚などを捕まえて食べるところは同じです。

待ち伏せ型の狩りをするものが多く、水底にじっと潜んで、通りがかった獲物にガバッと食らいつきます。このとき、下あごが長くのびて獲物を捕まえるヤゴもいます。

ヤゴの成長

ヤゴは何度か脱皮をくり返して成長していきます。

トンボはさなぎにならない不完全変態の昆虫なので、最後まで成長した幼虫が脱皮をすると、空を飛ぶことができる立派な羽をもったトンボになります。

成虫のトンボは水の中には入らず、空中で獲物を探し、昆虫などを捕まえて食べます。そして交尾の時期になると水辺に集まり、メスは受精した卵を水の中や、水の近くの植物などに散乱します。

ヤゴの生息地

ヤゴは、トンボの種類によってすむところがちがいます。

例えば、アキアカネやシオカラトンボのヤゴは、田んぼにすみます。プールなどの人工の水辺にすむこともあります。一方、カワトンボやオニヤンマのヤゴは川の上流にすみます。

ボウフラの特徴

ボウフラは、蚊の幼虫です。受精したメスの蚊は血を吸って栄養を得た後、卵の塊を水面に生みます。

卵は水の中でふ化し、細長い体で、ところどころに長い毛が生えたボウフラと呼ばれる幼虫になります。

水の中にふくまれるプランクトンや生き物の死骸などを食べます。水中で呼吸はできないので、ときどき水面に上がり、呼吸をします。

ボウフラの成長

ボウフラは成長するとさなぎになりますが、さなぎは丸まった腹部から長い尾が伸び、さらに水面に向かって2本の呼吸管が角のようにつきだしている奇妙な形で、「オニボウフラ」とよばれます。オニボウフラは何と、さなぎだというのに幼虫のころと変わらないくらい活発に動き回ります!

オニボウフラは水面にぷかぷかと浮かんでいますが、時期が来ると胴体の部分が割れて羽化し、羽をもった成虫の蚊になります。こうすることで、成虫は水に濡れることなく、飛び立てるのです。

ボウフラの生息地

よく「ボウフラは汚い水にわく」といわれるように、アカイエカなどのよく見かける種類の蚊は、濁った水を好みます。また、わずかな水で生きられるため、洗面器などにたまった雨水などにすむこともあります。種類によっては、澄んだ水を好むものや、川にすむものもいます。

ホタルの幼虫 天敵に食べられないように毒を出して身を守る!

ホタルの幼虫には、水中で暮らすものと陸で暮らすものがいます。

幼虫が水中で暮らすホタルとして知られるのは、ゲンジボタルとヘイケボタルです。どちらも、幼虫はイモムシのような姿をしていて、肉食で特定の種類の貝だけを食べます。幼虫もおなかの先に発光器をもち、夜には光ります。

体には毒があり、天敵に食べられないように毒を出して身を守ります。

ホタルの成長

ホタルの幼虫は、貝を食べて成長すると、やがてさなぎになります。

さなぎは水の中ではなく、土を掘った穴の中で羽化を待ちます。成虫になると水以外は何も食べず、光を使ってオスがメスを探して交尾し、水の近くに産卵します。

ホタルの幼虫の生息地

ゲンジボタルの幼虫は、流れのあるきれいな水にだけすみます。一方、ヘイケボタルは流れのない水を好み、田んぼなどにすんでいます。

カゲロウの幼虫の特徴

カゲロウの成虫は、ふわふわと飛ぶトンボとチョウの間のような姿の昆虫です。

カゲロウというと、はかないことをたとえた言葉として使われますが、これはカゲロウの成虫の寿命がとても短いことに由来しています。

成虫になるまでの幼虫は水の中で暮らし、はかない成虫とはまったく似ていません。幼虫にはえらがあり、水中で呼吸することができます。種類によって、昆虫などを捕まえて食べる肉食のものと、藻などを食べる草食のものがいます。

カゲロウの成長

カゲロウはいっせいに羽化して大発生することで知られます。

幼虫は10回以上も脱皮し、最後に羽のある亜成虫になります。亜成虫になると水を離れてひらひらと飛んでいき、さらに脱皮して、交尾ができる成虫になります。

成虫になると口が退化していて何も食べず、交尾をして産卵するとすぐに死んでしまいます。

カゲロウの幼虫の生息地

カゲロウの幼虫の多くは、川の上流の水のきれいなところだけにすみます。種類によっては、池や田んぼなどにすむものもいます。

ヘビトンボの幼虫の特徴

ヘビトンボは透明な羽根をもち、飛んでいるときはトンボに似ていますが、よく見ると体はずっと太く、するどい大あごをもつ昆虫です。幼虫は大きなあごをもったムカデのような姿で、水中で小さな虫などを食べて暮らす肉食の昆虫です。幼虫は「孫太郎虫」とよばれ、乾燥させて食用やこどもの薬として利用されます。

ヘビトンボの成長

ヘビトンボは完全変態の昆虫で、土の中でさなぎになります。

羽化した成虫は飛び回って交尾の相手を探し、受精したメスは水際の植物に卵を産みつけます。卵から出た幼虫は水の中に落ち、水中で暮らしはじめます。

ヘビトンボの幼虫の生息地

ヘビトンボの幼虫は、流れの速い川に暮らします。川底の石のすき間に挟まるようにして、流されないようにしながら獲物を待ち伏せします。

カワゲラの幼虫の特徴

カワゲラの幼虫は、きれいな水の中に暮らします。あしが長く、細長い体つきをしており、泳ぐのではなく、川の底を歩きます。多くの種は落ち葉や生きものの死骸などを食べますが、小さな虫などを食べる肉食のものもいます。

カワゲラの成長

カワゲラは不完全変態の昆虫で、さなぎにはならず、成長した幼虫が水面や水辺の草などに上がって羽化します。成虫にははねがあり、川の周囲などを飛び回ります。

カワゲラの幼虫の生息地

カワゲラの幼虫は、水のきれいな川の上流にすみます。

石の間や落ち葉がたまったところなどにすむので、石をひっくり返したり落ち葉の間をすくったりすると見つかることがあります。水がよごれると生きられなくなってしまうので、水のきれいさを調べるための目印とされることもあります。

カワゲラの幼虫の特徴

トビケラの成虫は、一見蛾のように見えますが、羽は鱗粉ではなく毛におおわれています。幼虫は細長いイモムシのような姿で、水の中に変わった形の巣を作ることで知られています。巣の材料は、種類によってちがいますが、落ち葉や砂粒、石などを使い、口から出した糸を接着剤のようにして筒状の巣をつくり、その中に身を隠します。カタツムリの殻のような形の巣をつくるものもいます。また、巣ではなく糸で網を張って、引っかかったえさを食べる種もいます。

トビケラの成長

トビケラは完全変態の昆虫で、さなぎになります。種によっては水中でさなぎになり、羽化の直前に泳いで水面に出るものもいます。成虫は交尾した後に水の中にもぐり、産卵します。

トビケラの幼虫の生息地

トビケラの幼虫はおもに川にすみます。流れのある川の上流にすむ種が多く、多くの種が落ち葉などを食べます。

まとめ

水辺には多くの種類の昆虫がくらしていることがわかりましたでしょうか。

水生昆虫には、一生を水中で暮らすものと幼虫のときだけ水中にいるものがおり、一生を水中で暮らすものは、カブトムシなど甲虫の仲間であるゲンゴロウ、ガムシ、ミズスマシなどと、カメムシの仲間であるアメンボ、タガメ、コオイムシなどが中心です。

もともと陸上で暮らしていた昆虫が水中で暮らすためには、水中でどのように呼吸するかが重要ですが、それも種類によって異なり、羽の下の細かい毛に空気をたくわえるものやシュノーケルのような呼吸管をもっているもの、そもそも水中で呼吸することができるエラをもっているものなどがいます。

また、アメンボやミズスマシのように、そもそも水中ではなく水面で活動するため、呼吸の心配をする必要がないものもいます。

水中にはえさとなる藻類やプランクトン、小さな生きものなどが豊富にあります。また、日本では昔から田んぼに水を入れる稲作がさかんで、水生昆虫たちにとって暮らしやすい水辺環境が豊富にありました。

一方で、水にすむ生きものは環境の変化に弱いという弱点もあります。

例えば、日照りが続いて池が干上がってしまったり、すんでいる水に農薬などの有害な物質が流れ込んでしまったり、工事などによって水辺そのものがなくなってしまったりすると、その範囲にいた水生昆虫が全滅してしまうことも少なくありません。

かつて、ゲンゴロウやタガメなどの水生昆虫は、日本の人にとって「いつでも見られる身近な存在」でした。ところが、現在では田んぼの減少や開発が進み、ほとんどすべての水生昆虫が激減しています。個性あふれる水生昆虫たちが二度と見られなくならないように、豊かな水辺の環境を、守っていきたいですね。