一般的にヒラタクワガタといえば、北海道以外のほとんどの地域に生息しているヒラタクワガタのことをいい、本土ヒラタなどと呼ばれることもありますが、実は日本国内には様々な種類のヒラタクワガタが生息していることをご存知でしょうか?
世界に目を向けると、パラワンオオヒラタクワガタやスマトラオオヒラタクワガタなど、大きくて体が太い迫力満点のヒラタクワガタが有名ですが、日本の離島には独自の進化を遂げた大きなヒラタクワガタが生息しています。
この記事では、日本国内に生息しているヒラタクワガタの仲間14種類の特徴や生息地についてご紹介します。
本土ヒラタクワガタ(Dorcus titanus)
まずは本土ヒラタクワガタをご紹介します。先ほども申し上げましたが、一般的にヒラタクワガタとは、日本の本土に生息する本土ヒラタとよばれる種のことをいい、この記事でも、本土に生息するヒラタクワガタのことは本土ヒラタと呼ぶことにします。
今一度おさらいの意味を含め、本土ヒラタクワガタは北は東北から四国・九州まで日本国内に幅広く生息しているヒラタクワガタで、西に行くほど大きな個体が生息しており、九州では70mmを超える個体も採集することができます。
逆に、東日本や関東では大きな個体が少なく60mmを超える個体は珍しいようです。
本土ヒラタクワガタ採集のポイント
本土ヒラタクワガタは、主にクヌギやコナラなどの広葉樹から出る樹液に集まります。昼間は木の洞(穴)や皮のめくれの内側に潜んでいます。
夜になると樹液を求めて活発に活動します。
本土ヒラタクワガタの大きさ
本土ヒラタクワガタの大きさは、オスの個体で35mm〜75mm、メスの個体で20mm〜40mmです。
ちなみに2022年12月現在の本土ヒラタクワガタの野外採集レコードは77.6mmで、飼育レコードは90.0mmです。(※オスの個体)
スジブトヒラタ(Dorcus metacostatus)
スジブトヒラタは奄美大島と徳之島周辺にのみ生息する日本固有種です。同地域に生息しているヒラタクワガタに、アマミヒラタクワガタがいます。
スジブトヒラタの特徴として上翅(上側の翅)にハッキリとしたスジ模様が8本あり、本土ヒラタと外観で容易に見分けることができます。
寿命は、生息環境や飼育環境によりますが、長い個体では3年ほどです。
スジブトヒラタの大きさ
スジブトヒラタのオスの体長は40mm〜70mmですが、野生の個体では60mmを超える個体は珍しく、ブリード個体では70mmを超える個体もいます。
メスの体長は、25mm〜45mmほどです。
ちなみに2022年12月現在のスジブトヒラタクワガタの野外採集レコードは70.1mmで、飼育レコードは74.6mmです。(※オスの個体)
スジブトヒラタの生態
スジブトヒラタは、5月上旬〜10月に活動し、7月頃が発生のピークとなります。
またスジブトヒラタはアカメガシワやスダジイといった広葉樹の樹液に集まる習性があります。
スジブトヒラタの産卵
スジブトヒラタのメスは、立ち枯れしてしまった広葉樹の根の付近や、広葉樹の倒木下部に産卵します。
アマミヒラタクワガタ(Dorcus titanus elegans)
アマミヒラタクワガタは、奄美大島と加計呂麻島、その周辺の島々に生息するヒラタクワガタの亜種で、国内で生息するヒラタクワガタの中でも大型のヒラタクワガタです。
外観は一見すると本土ヒラタと同じように見えますが、第一内歯(大きな突起)の位置が本土ヒラタより、やや大顎の中央にあることや上翅に薄っすらとある縦の筋模様で判別することができます。
アマミヒラタクワガタの大きさ
アマミヒラタクワガタのオスは23mm〜75mmほどで、大きな個体と小さな個体ではかなり大きさが異なります。
メスは28mm〜43mmほどです。
飼育下では、80mmを超える個体も報告されています。
ちなみに、2022年12月現在のアマミヒラタクワガタの野外採集レコードは75.0mmで、飼育レコードは80.2mmです。(※オスの個体)
アマミヒラタクワガタの生態と特徴
アマミヒラタクワガタは、本土ヒラタに比べて、大顎や体の横幅広く、特に大きな個体ほどこの特徴は顕著にみられる。
本土ヒラタなど多くのクワガタが初夏に羽化するのに対し、アマミヒラタクワガタは初秋に羽化して翌年の初夏に発生するのですが、近年の温暖化で個体によっては、初夏に羽化する個体も増えているようです。
また同種が生息する奄美大島と加計呂麻島、その周辺の島々には、前述したスジブトヒラタクワガタが生息しているが、羽化する時期や、生息地の標高の差などで住み分けしていると考えられている。
チョウセンヒラタクワガタ(Dorcus consentaneus)
チョウセンヒラタクワガタは、長崎県の対馬に生息する比較的小型のヒラタクワガタです。チョウセンヒラタクワガタは、中国や朝鮮半島などにも生息しており、はるか昔、朝鮮半島がまだ陸続きだった時代に対馬に住み着いたのではないかと考えられています。
生息数はそれほど多くなく、同じ島にチョウセンヒラタクワガタよりも大型のツシマヒラタクワガタが生息しており、良質な広葉樹の森はツシマヒラタクワガタが幅を利かせていることもあり、チョウセンヒラタクワガタは海際の条件の悪い林などに追いやられていることが多いようです。
チョウセンヒラタクワガタの大きさ
チョウセンヒラタクワガタのオスは、25mm〜60mmほどで、自然界の個体では30mm前後の個体が多いです。
メスの大きさは20mm〜30mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のチョウセンヒラタクワガタの野外採集レコードは53.9mmで、飼育レコードは59mmです。(※オスの個体)
チョウセンヒラタクワガタの生態
チョウセンヒラタクワガタも他のヒラタクワガタ同様に広葉樹の森に生息しており、6月〜9月にかけて活発に活動する。広葉樹の木の樹液に集まります。
ノコギリクワガタやミヤマクワガタなどのように飛ぶことはなく基本的には歩行による移動がほとんどです。
メスは羽化した年に産卵することはほとんどなく、越冬して次の年になると高湿度な広葉樹の腐葉土に産卵します。
ツシマヒラタクワガタ(Dorcus titanus castanicolor)
ツシマヒラタクワガタは、先程、ご紹介したチョウセンヒラタクワガタと同じ、長崎県の対馬に生息する比較的大型なヒラタクワガタです。
朝鮮半島や済州島、珍島などにも生息しており、朝鮮半島と九州が大昔に陸続きだった時代に住み着いたのだと考えられています。
ツシマヒラタクワガタの大きさ
ツシマヒラタクワガタのオスは、50mm〜84mmほどで、かなり大きい個体も見られます。
メスは25mm〜40mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のツシマヒラタクワガタの野外採集レコードは84.0mmで、飼育レコードは87.4mmです。(※オスの個体)
ツシマヒラタクワガタの野外採集レコード84.0mmは、現在、日本国内での野外採集されたクワガタの中で最長です。
ツシマヒラタクワガタの生態
ツシマヒラタクワガタは大あごが長く直線的に伸びているのが特徴で、体幅は比較的狭い傾向にある。
大あごの基部から5分の1のところに最初の内歯があり、その後、先端部の歯が目立つことが観察される。
体色は黒色から褐色まで様々で、学名にあるように上翅が赤褐色の個体もいる。自然環境下では50mm〜65mmの大きさになることが多い。
ゴトウヒラタクワガタ(Dorcus titanus karasuyamai)
ゴトウヒラタは長崎県の五島列島(中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島と周辺の小さな島々)に生息するヒラタクワガタです。
オスの大顎は長く直線的に伸びており、第一内歯が大顎の根本に近い位置にやや下向きに突き出しているのが特徴です。
ゴトウヒラタクワガタの大きさ
ゴトウヒラタクワガタのオスは30mm〜78mmほどで、飼育下では80mmを超える個体もいます。
メスは25mm〜38mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のゴトウヒラタクワガタの野外採集レコードは78.5mmで、飼育レコードは82.0mmです。(※オスの個体)
イキヒラタクワガタ(Dorcus titanus tatsutai)
イキヒラタクワガタは、長崎県の壱岐諸島に生息するヒラタクワガタで、国内で生息するヒラタクワガタの中でも比較的大型の種です。
イキヒラタは、もともと五島列島・壱岐・対馬に生息しているヒラタクワガタの亜種がひとまとめになっておりましたが、最近ではそれぞれの種に関する研究が進み分類されるようになりました。
イキヒラタクワガタの大きさ
イキヒラタクワガタのオスは、30mm〜80mmほどで、天然個体でも80mmを超える個体が見つかっています。
メスは30mm〜43mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のイキヒラタクワガタの野外採集レコードは81.6mmで、飼育レコードは82.6mmです。(※オスの個体)
タカラヒラタクワガタ(Dorcus titanus takaraensis)
タカラヒラタクワガタは、鹿児島県のトカラ列島(宝島・小宝島)にのみ生息するヒラタクワガタの亜種です。
全体的に横幅があり、重量感のあるどっしりとした体つきが特徴です。この特徴は大型個体になればなるほど顕著にみられます。
また同種は十島村昆虫保護条例により、採集禁止になっており、無許可で採集し、島外に持ち出すことは禁じられています。
もし、タカラヒラタクワガタを手に入れるのであれば、条例により採集が禁止される前に採集した個体を累代しているブリーダーから購入するしか方法はないです。
タカラヒラタクワガタの大きさ
タカラヒラタクワガタのオスは、30mm〜70mmほどの大きさで、飼育下では75mmの個体もいるようです。
メスは30mm〜40mmほどの大きさです。
ちなみに、2022年12月現在のタカラヒラタクワガタの野外採集レコードは70.1mmで、飼育レコードは75.0mmです。(※オスの個体)
トクノシマヒラタクワガタ(Dorcus tinanus tokunoshimaensis)
トクノシマヒラタクワガタは、鹿児島県の徳之島に生息するヒラタクワガタの亜種で、比較的大型の種です。
同種の特徴は、第一内歯(大きな突起)が、大顎の中央に位置し、大顎の先端が内側に向いている点で、アマミヒラタにも同様の特徴が見られます。
また、この種は全体的に横幅があり重量感のある迫力満点の体つきが人気のヒラタクワガタです。
トクノシマヒラタクワガタの大きさ
トクノシマヒラタクワガタのオスの大きさは、30mm〜78mmほどで、飼育下では80mm近い個体も報告されています。
メスは30mm〜40mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のトクノシマヒラタクワガタの野外採集レコードは78.6mmで、飼育レコードは79.5mmです。(※オスの個体)
オキノエラブヒラタクワガタ(Dorcus titanus okinoerabuensis)
オキノエラブヒラタクワガタは、鹿児島県の沖永良部島に生息するヒラタクワガタの亜種で、大顎の裏側にオレンジ色の毛がはえている、面白い特徴のあるヒラタクワガタです。
上翅が赤い個体がいるのも、オキノエラブヒラタクワガタの特徴です。
オキノエラブヒラタクワガタほ、通常、秋に羽化して、蛹室のなかで越冬し翌年の夏に発生するのですが、近年、温暖化がすす晩夏に発生する個体が増えているようです。
オキノエラブヒラタクワガタの大きさ
オキノエラブヒラタクワガタのオスは、28mm〜67mmほどで、飼育下では70mmを超える個体もいるようです。
メスの大きさは、25mm〜35mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のオキノエラブヒラタクワガタの野外採集レコードは67.6mmで、飼育レコードは70.1mmです。(※オスの個体)
オキナワヒラタクワガタ(Dorcus titanus okinawanus)
オキナワヒラタクワガタは、沖縄本島及び、その周辺の久米島・渡嘉敷島・伊平屋島などに生息するヒラタクワガタの亜種です。
オキナワヒラタクワガタの大顎は、太く、短いので重量感があるのが特徴で大顎の先端が鋭く内側に向いているところが非常にかっこいいヒラタクワガタです。
オキナワ本島は、現在、独立した島ですが大昔に大陸と陸続きだったときに、この種は定着したと考えられています。
オキナワヒラタクワガタの大きさ
オキナワヒラタクワガタのオスは、30mm〜70mmほどの大きさで、飼育下では75mmを超える個体もいるようです。
メスの大きさは、25mm〜38mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のオキナワヒラタクワガタの野外採集レコードは71.5mmで、飼育レコードは76.3mmです。(※オスの個体)
サキシマヒラタクワガタ(Dorcus (Serrognathus) titanus sakishimanus)
サキシマヒラタクワガタは先島諸島、特に八重山諸島に多く生息するヒラタクワガタの亜種です。
大顎や、体の幅が広く、さらに自然界でも79.1mmと80mm近い個体も確認されており、日本国内でも最大級のクワガタです。
サキシマヒラタクワガタも、他のヒラタクワガタの亜種と同様に広葉樹の森に生息しており、冬季にも少数だが、活動する個体もいる。
サキシマヒラタクワガタの大きさ
サキシマヒラタクワガタのオスは、50mm〜79mmほどの大きさで、飼育下では80mmを超える個体もいる。
メスの大きさは25mm〜38mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のサキシマヒラタクワガタの野外採集レコードは79.1mmで、飼育レコードは84.2mmです。(※オスの個体)
ダイトウヒラタクワガタ(Dorcus titanus daitoensis)
ダイトウヒラタクワガタは、沖縄県の南大東島、北大東島に生息するヒラタクワガタの亜種で、国内に生息するヒラタクワガタの亜種の中では小型の種です。
またダイトウヒラタクワガタはDNA解析により国内に生息するヒラタクワガタの亜種の中では、最も古くから分布している種です。
ちなみに大東島は大陸から分離して孤立した島になったのではなく、新たに出現した島なのでダイトウヒラタクワガタが、どういった経路でこの島に定着したのかは不明です。
このダイトウヒラタクワガタですが、生息数も多くなく、生態については不明な点が多いです。
ダイトウヒラタクワガタの大きさ
ダイトウヒラタクワガタのオスは、25mm〜53mmほどの大きさで、飼育下では65mmを超える個体もいる。
メスの大きさは、20mm〜35mmほどの大きさです。
ちなみに、2022年12月現在のダイトウヒラタクワガタの野外採集レコードは53.5mmで、飼育レコードは65.0mmです。(※オスの個体)
ハチジョウヒラタクワガタ(Dorcus titanus hachijoensis Fujita et Okuda)
最後にご紹介するのはハチジョウヒラタクワガタです。
ここまで、数多くのヒラタクワガタの亜種をご紹介してきましたが、そのほとんどが鹿児島県や長崎県・沖縄県などの離島に生息している種でした。
ハチジョウヒラタクワガタは、東京都心から南に約287kmのところにある八丈島に生息するヒラタクワガタの亜種です。
ハチジョウヒラタクワガタは、内歯の位置が大顎の先端付近にある個体や、大顎の基に近い位置にある個体など、内歯の位置が異なる個体がが狭い島内に生息していることも特徴です。
これは世界的に見ても珍しいようです。
ハチジョウヒラタクワガタの大きさ
ハチジョウヒラタクワガタのオスは、30mm〜60mmほどで、飼育下では70mmを超える個体もいる。
メスの大きさは、25mm〜35mmほどです。
ちなみに、2022年12月現在のハチジョウヒラタクワガタの野外採集レコードは60.3mmで、飼育レコードは73.0mmです。(※オスの個体)
まとめ
いかがだったでしょうか?日本国内だけでもこんなにもたくさんのヒラタクワガタが生息していることに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
最近、ヤフオクなどではオオクワガタの販売が禁止されて購入することができなくなってしまいましたが、当記事でご紹介したヒラタクワガタの多くはネットで購入することぎできますので、購入して飼育してみるのもいいでしょう。
もちろん、生息地に行って自ら採集するのもいいでしょう。ただ、種によっては条例により採集禁止になっている場合もありますので注意してくださいね。