カマキリは、その名の通り草を刈るときに使う「鎌」によく似た形の前あしが特徴の、肉食の昆虫です。日本にすんでいるのは主に7種で、外国から入ってきて日本で広がっているものが1種います。世界ではおよそ2400種のカマキリが知られています。
世界には、花や葉っぱにそっくりなカマキリや、長いツノのような突起のあるカマキリなどとても変わった姿のカマキリがいますが、日本で見られるカマキリはそれほど奇抜な姿ではなく、どの種もほとんど似たような形をしています。
カマキリに共通してみられる特徴 肉食昆虫ならではの体つき
カマキリに共通する特徴を並べてみましょう。
- 鎌のような形の前あし
- 逆三角形の頭と大きな目
- 細長い体と折りたたまれた透明な羽
カマキリの仲間はすべて肉食で、小さな虫などをとらえて食べます。肉食昆虫の代表格と言ってもよく、上にあげたカマキリの特徴は、すべて「獲物をとらえるハンター」として役に立つように進化した結果と言えます。
例えば、鎌のような前あしは、実際の鎌のように何かを切ることはできませんが、獲物の体をがっしりとつかみ、獲物がどんなに暴れても離しません。つかむ力は強く、指を挟まれると人間でも痛いほどです。
また、逆三角形の頭についた2つの大きな複眼は、小さな獲物でも見逃さないするどい目です。両方の目が正面についているので物を立体的に見ることができ、獲物との距離を正確に測ることができます。これは、動物でもライオンなど、狩りをする肉食獣に共通する特徴です。
さらに、意外かもしれませんがカマキリはよく飛びます。飛ぶときは背中に折りたたまれている羽が左右に大きく開き、鎌を前に伸ばして残りの四本のあしを横に広げ、バンザイをするような姿で飛びます。飛ぶことによって大きな距離を移動することができ、広い範囲の獲物を探すことができるのです。
カマキリの狩りは「待ち伏せ型」
カマキリの狩りのスタイルは、獲物を追いかけるのではなく獲物を待ち構える「待ち伏せ型」。
草むらに隠れてじっと息を殺し、気づかずに近くを通りかかった獲物が鎌の届く範囲に入った瞬間、目にも留まらぬ速さでバッとおそいかかり、獲物が気がついたときには鎌でしっかりと挟まれて逃げられなくなってしまっているのです。
待ち伏せにふさわしいように、カマキリの外見は草や葉っぱによく似た色をしていて、草むらでじっとしているとなかなか気が付きません。
カマキリは昆虫の中でも特に古くから存在していて、なんと、今から数千年前の、恐竜が生きていた時代にはすでに今のカマキリとそっくりな特徴をもつ祖先が生きていました。
古くから形が変わらないのは、ハンターとしてのカマキリのスタイルが実によくできているため、これ以上進化する必要がなかったのでしょう。まさに「究極の肉食昆虫」と言えるわけですね。
カマキリが怒っているときは体を大きく広げて威嚇する
カマキリをさわったりして怒らせると、羽を大きく広げ、鎌をふりあげて見せます。これは、自分の体を大きく見せて威嚇している様子です。体を大きくゆらしたり、鎌を上げ下げしたりすることもあります。
普通は飛んでいるときしか見ることができない、折りたたまれて隠れている透明な下羽も、威嚇のときには大きく広げて見せつけてくれます。
体の色が緑色型と褐色型 実は同じ種類のカマキリだったりもする
カマキリには、体の色が緑色のもの(緑色型)と、枯れた葉っぱのような茶色のもの(褐色型)がいます。
「体の色が違うから違う種のカマキリだ」と考えてしまいがちですが、よく見られるオオカマキリやカマキリなどは同じ種の中に緑色型と褐色型の両方がいて、見た目が違ってもどちらも同じ種、ということもあります。
もちろん、同じ種であれば、褐色型のオスと緑色型のメスが交尾するようなこともありえます。
体の色がどちらになるかは親の特徴を受け継いで決まるようですが、種によっては「暖かい場所だと緑色型が多い」などといった傾向があるようです。
カマキリの交尾は命がけ 交尾中にメスがオスを食べてしまうことも
カマキリの仲間は交尾が激しいことでも知られています。なんと、交尾の途中でメスがオスを食べてしまうことがあるのです!
カマキリの仲間はメスがオスより大きく、オスがメスに交尾をするために飛び乗った途端、メスがオスを頭からバリバリ食べはじめる……なんてことも。
食べられているオスは逃げることもなく、必死で腹部を伸ばして食べられながら交尾を果たします。
無事に交尾が終われば、オスは死んでしまってもメスは産卵することができるというわけです。一度交尾をすると、メスは食べものが豊富にあれば何度でも卵を生むことができるようで、オスが食べられてメスの栄養になった方が子孫を残す可能性が高まるようですが、なんともすさまじい生存戦略です。
カマキリの成長のしかたと卵
カマキリの仲間はバッタなどと同じく「不完全変態」の昆虫です。
生まれたときから成虫と似たような姿をしていて、前あしの鎌もちゃんとあります。羽は短くてまだ飛べませんが、幼虫のときから狩りをして獲物をとらえて食べ、脱皮をくり返しながら成長していきます。
成虫になるまでに、5〜10回ほどの脱皮をするようです。成虫との見分け方は、まだ羽が短くて腹部が羽からはみ出しているのが幼虫です。
カマキリの卵は、「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる泡がかたまってできたスポンジのような塊に、非常に小さな卵がたくさん入っています。秋に、この卵鞘を木の枝などにくっつけるようにして産みつけます。
卵鞘の形や特徴は種によって違い、特徴がわかればどの種のものか見分けることができます。
カマキリは卵の状態で冬を越し、春になって暖かくなるといっせいに孵化します。ひとつの卵鞘から、体長1cmにも満たない幼虫が数十匹〜最大で200匹もいっぺんに出てくるのです。
カマキリの卵の孵化に関する動画↓
冬に見つけたカマキリの卵鞘を持って帰って引き出しに入れておいたら、部屋の暖かさで春になったと勘違いしたカマキリが孵化し、無数の小さなカマキリが部屋中を歩き回って大変なことに……というのは、よく耳にするカマキリにまつわる怖い話ですね。
それでは、カマキリに関する説明はこれくらいにして、次章より日本に生息するカマキリの仲間をご紹介していきます。
カマキリ(チョウセンカマキリ)
単に「カマキリ」とよばれる種です。チョウセンカマキリとよぶこともありますが外来種ではなく、日本にも,
もともとすんでいるカマキリです。
日本のカマキリの仲間の中では大型で、オスは体長が65〜80mm、メスは70〜90mmほどです。
褐色型と緑色型の両方がいます。胸の内側にオレンジ色の鮮やかな模様があるのが特徴です。
カマキリ(チョウセンカマキリ)の生息地
日本全国にすんでいますが、北海道では南の方にしかいません。名前のとおり朝鮮半島や、中国にもすんでいます。開けた明るい草地にすみ、田んぼや畑、河原や草むらなどで見つけられます。住宅街などでもよく見つかります。
カマキリ(チョウセンカマキリ)の卵鞘
卵鞘は細長い枕のような形をしています。
カマキリ(チョウセンカマキリ)の見分け方のポイント
オオカマキリとよく似ていますが、カマキリの方がやや小さく、胸の模様はカマキリの方が鮮やかです。威嚇して羽を見ることができたら見分けやすく、羽の色はより透明に近いうすい茶色です。
オオカマキリ
カマキリの仲間の中で最も大きい種で、オスは体長が68〜92mm、メスは77〜105mmです。
カマキリ(チョウセンカマキリ)と並んでよく見られる種でもあります。褐色型と緑色型の両方がいますが、オスはほとんどが褐色型のようです。褐色型でも羽の縁だけは緑色になります。
オオカマキリの生息地
北海道から沖縄まで、日本中で見られます。台湾や中国にもすんでいます。雑木林や、林に近い草地にすんでいます。カマキリ(チョウセンカマキリ)に比べると、比較的木が多く暗いところによくいるようです。
オオカマキリの卵鞘
卵鞘はふっくらと丸っこい形をしています。
オオカマキリの見分け方のポイント
体長が90mm以上あればオオカマキリだとわかりますが、個体差もあるので、カマキリ(チョウセンカマキリ)と間違いやすいかもしれません。
威嚇したときに見える下の羽の色が黒に近い、紫がかった濃い茶色をしています。また、胸の模様はうすい黄色です。
ハラビロカマキリ
全体的に丸っこい形をしたカマキリで、関西では最もよく見られる種です。
オスは体長が45〜65mm、メスは52〜71mmで、緑色型と褐色型の両方がいますが、本州では緑色型のほうが多く見られます。
ハラビロカマキリの生息地
暖かい地域を好み、日本では関東より南にすみます。公園や街路樹など、人の住むところの近くでよく見られ、よく木に登ります。
ハラビロカマキリの卵鞘
卵鞘は枕のような楕円の形で、木の枝についていることが多いです。オオカマキリなどより固いのが特徴です。
ハラビロカマキリの見分け方のポイント
カマキリ(チョウセンカマキリ)やオオカマキリに比べて胸や腹が太く短いのが特徴です。また、羽に白い点のような模様がひとつあることで、他の種と見分けることができます。
コカマキリ
名前の通り小型のカマキリで、全体に細身です。
体長はオスが36〜55mm、メスが46〜63mm。褐色型が多いですが、九州などの暖かい地域ではわずかに緑色型もいます。鎌の内側に黒と白の模様があり、威嚇のために鎌を構えるとよく目立ちます。
コカマキリの生息地
本州から九州までにすんでいます。北海道や沖縄にはいません。道端の草むらなどでよく見られます。道路を渡っているのを見かけることもよくあります。
コカマキリの卵鞘
卵鞘はやや平たく細長い形で、木の幹の根本や、石の下など、地面に近いところに産みつけられます。
コカマキリの見分け方のポイント
鎌の内側の模様はコカマキリにしかないので、すぐに見分けることができます。
ウスバカマキリ
めずらしいカマキリです。カマキリ(チョウセンカマキリ)よりやや小さく、体長はオスが55〜66mm、メスが59〜66mmと、オスとメスの大きさの違いがあまりありません。
緑色型も褐色型もいますが、どちらも他の種に比べて色がうすく、緑色型は白っぽい黄緑色、褐色型はクリーム色に近い色です。よく飛び、飛んだときの下羽の色は透明です。
ウスバカマキリの生息地
北海道の南部から九州まですんでいますが、他のカマキリと違い、河原や海岸に近い草むらなどの限られた場所にだけいます。見つけられたらラッキーですね。
ウスバカマキリの見分け方のポイント
体の色でも見分けられますが、よく見ると鎌のつけ根のところに黒っぽい点があり、鎌の内側には黄色い点があるのが特徴です。
ヒメカマキリ
体長がオスメスともに25〜36mmしかない小さなカマキリです。
すべて褐色型で、全体が褐色のものと、ほとんどが褐色で羽の縁だけが緑色のものがいます。驚くとよく死んだふりをします。
ヒメカマキリの生息地
本州から沖縄までの、比較的暖かい地域にすんでいます。林の中などにすんでいて、低い木の葉の上などでよく見つかります。
ヒナカマキリ
日本のカマキリの中で最も小さく、体長はオスメスともに12〜18mmほどと、2cmにも満たない大きさです。羽が退化していてとても短く、飛ぶことはできません。その代わりに非常に素早く動き、ちょこまかと走り回ります。体全体に対して頭が大きいのが特徴です。緑色型はおらず、全身が褐色です。
ヒナカマキリの生息地
本州から沖縄までの、比較的暖かい地域にすんでいます。林の落ち葉の上でよく見られますが、建物の壁を走り回っていることもあります。
ムネアカハラビロカマキリ(外来種)
本来は中国などにすんでいる外来種です。2000年頃から日本でも見られるようになり、近畿、中部、関東などの広い地域に広がっています。
竹ぼうきなどに卵がくっついて日本に入り込んだのではないかと考えられています。
ハラビロカマキリによく似ていますが、名前の通り胸の内側が赤いのが特徴です。体長は58〜80mmほどとハラビロカマキリより少し大きく、ムネアカハラビロカマキリが増えるとハラビロカマキリが減ってしまう可能性があり、問題になっています。
まとめ
日本で見られるカマキリ8種類にについて解説しました。
カマキリは、大昔から変わらない姿をもつ「究極の肉食昆虫」であり、待ち伏せ型の狩りで獲物をとらえるのにぴったりの特徴をもっています。
日本で見られるのは主に8種で、大まかな体の形は共通していますが、それぞれに大きさやすむ場所、模様などが違っています。
カマキリの大まかな見分け方について
ここでカマキリの仲間の見分け方をまとめておくと、以下のようにまとめることができます。
- 体の色が緑色のものと茶色のものがいるが、それだけでは種が違うとは限らない。
- カマキリの仲間は基本的に、メスが大きくてオスが小さい。
- 小さくて、羽が短いもの(腹部がはみ出しているもの)は、幼虫の可能性が高い。
カマキリの種類 簡単に見分ける方法
上記を理解した上で、以下のようなポイントで見分けることができます。
- 成虫の大きさが3cm以下のカマキリはヒメカマキリかヒナカマキリ。ただし、他の種の幼虫と見分けるのは難しいです。
- 成虫で大きさが3cm以上のカマキリで鎌の付け根が黒い個体はウスバカマキリ
- 鎌の内側に黒と白の模様があるカマキリはコカマキリ
- 羽に白い点があるカマキリはハラビロカマキリ(胸の内側が赤いものは、外来種のムネアカハラビロカマキリ)
- 胸の内側にオレンジ色の模様があり、下羽の色が透明なカマキリはカマキリ(チョウセンカマキリ)
- 胸の内側にうすい黄色の模様があり、下羽の色が黒に近い濃い茶色のカマキリはオオカマキリ
いかがでしょうか。これで、道ばたで出会ったカマキリをだいたい見分けることができそうですね。
カマキリはむやみにつかんだりしなければ人に危害を加えることはありませんし、動きもおもしろい虫ですので、ぜひ、観察してみてください。