「ヤンバルテナガコガネ」という甲虫をご存知ですか?
甲虫とは、昆虫の一種で、硬い前翅が特徴的です。その中でも、日本最大の甲虫が「ヤンバルテナガコガネ」です。
しかし、その生態には多くの謎があります。この記事では、絶滅危惧種に指定されているヤンバルテナガコガネの生態や生息地について詳しく解説します。この記事を読むことで、ヤンバルテナガコガネに関する謎が解けるかもしれません。
ヤンバルテナガコガネの生態
ヤンバルテナガコガネの生態については、まだ多くが謎めいたままですが、これまでの研究から、一部が明らかにされています。
まず、ヤンバルテナガコガネはコガネムシ科に属し、日本で最大の甲虫とされています。成虫の体長はカブトムシよりも大きく、体長6〜7cm程度にもなります。
ヤンバルテナガコガネの生態の特徴として、雄が脛節の内側に棘を持つ前足を使って雌を取り合うことが挙げられます。また、餌場を確保するために、雄同士が争うこともあります。このような行動は、コガネムシ科に属する甲虫には一般的なものですが、ヤンバルテナガコガネの場合、その巨体のため、熾烈な争いが繰り広げられることが知られています。
幼虫の時には、住処である大木の朽ちた所を餌として成長します。成虫になった後は、シイやカシの樹に集まり、樹液を餌としています。雄は光に反応して飛びますが、雌は大木の中から出てくることはほとんどありません。そのため、雌を見かけることは極めて珍しいでしょう。
産卵の際には、10〜20個ほど卵を産みますが、成虫へと羽化してもすぐに住処から出るわけではありません。卵から孵化し幼虫となってから蛹になるまで約3年の期間を要し、成虫になっても、そのまま大木の蛹室の中で過ごし、翌年の8月頃にやっと出現します。
産卵や成長の過程については、まだまだわからないことが数多くあります。
かなり昔から存在は知られていたヤンバルテナガコガネ なぜ発見されなかったのか?
ヤンバルテナガコガネは、その存在はかなり昔から知られていましたが、正式に発見されたのは1983年のことでした。
なぜ、その存在が知られていたにもかかわらず、なかなか発見されなかったのか、不思議に思う人もいるでしょう。しかし、それこそがヤンバルテナガコガネの生態の秘密なのです。
甲虫といえば、夏の昆虫というイメージがありますよね。夏休みに、カブトムシやテントウムシを採取した人もいるでしょう。そのため、ヤンバルテナガコガネも夏がシーズンだと思いがちですが、実はそうではありません。
ヤンバルテナガコガネは、秋になると成虫となって出現します。一般的な甲虫の出現時期と、ヤンバルテナガコガネの出現時期が多少ずれている点も、なかなか、発見されなかった理由のひとつかもしれません。
ヤンバルテナガコガネの大きさと飛翔能力
雄は約4.5~6.2cm、雌は少し小さく4.5~6.0cmほどで、我々、人間の常識を覆すような大きさです。一般的に知られているコガネムシ(Mimela splendens)の大きさが2cm前後なのを考えるとヤンバルテナガコガネの大きさは、規格外だと言えます。
また、羽化した後、ヤンバルテナガコガネはその大きな体でかなりの飛翔能力を持ち、広い行動範囲を持っています。
ヤンバルテナガコガネの生息地と生息する環境の現状について
ヤンバルテナガコガネは、沖縄県北部にある山地・ヤンバルに生息しています。
その生息域はヤンバルのなかではかなり広範囲まで広がっています。そして、ヤンバルテナガコガネがなかなか発見されない理由はこの生息地にも秘密があるのです。ヤンバルテナガコガネがいる場所には、ハブも生息しています。猛毒を持っているハブが近くにいるため、簡単には近づけないのです。
ヤンバルテナガコガネがいるのは、オキナワウラジロガシなどの大きな木です。その樹洞で、幼虫は約3年ぐらい成虫になるまで過ごします。その成長過程で住む位置を変えるのも、ヤンバルテナガコガネの面白いところです。
若齢幼虫は浅い位置に、そして成長する度に深い場所へと移動していく傾向にあるようです。そして樹洞の一部に楕円形の蛹室を作り幼虫はそこで蛹化し成虫へと羽化します。
ちなみに沖縄のヤンバルだからといって、どこでも大木があるわけではありません。
なかでもヤンバルテナガコガネが多いのは、国頭村付近だとされています。なぜなら、ノグチゲラの生息地であるからです。ノグチゲラは、木に穴を開けて生活します。やがて、ノグチゲラが去った後の穴にヤンバルテナガコガネは住み着くのです。
絶滅危惧種ヤンバルテナガコガネ 保護の取り組みについて
ヤンバルテナガコガネは、絶滅危惧IB類 (EN)に分類されています。実は、1983年に発見された時には既に絶滅寸前だったのです。
ただでさえ個体数が少ない上に、成虫になるまでの期間が長い。そのため、成虫になる前に命尽きるヤンバルテナガコガネもいるのです。そのため、ますますその数は少なくなっていくのです。
更に、悪条件がヤンバルテナガコガネを襲います。前述した通り、ヤンバルテナガコガネはノグチゲラの巣穴を住処にしてきました。しかし、ノグチゲラそのものの数が減少しています。原因は、ダムの建設などのために樹を伐採したためです。
そういったダム建設などの影響でノグチゲラは住む場所をなくしてしまい、巣穴を提供してくれる生物がいなくなったために、ヤンバルテナガコガネも住処を失っていくのです。
またヤンバルテナガコガネを密猟する人間もいます。密猟者によって、貴重なヤンバルテナガコガネは更にその数を減らしているのです。
これらダム建設や密猟の影響もありヤンバルテナガコガネを取り巻く環境は依然厳しく2023年4月時点では、その正確な数というのは把握できていないのです。
多くの人々がヤンバルテナガコガネの生態を研究したいと思うでしょう。しかし、簡単に情報を得ることはできません。ヤンバルテナガコガネを見つけたとしても、すぐに採取することはできません。
ヤンバルテナガコガネに関する研究を行いたい場合、必ず許可を取得する必要があります。正当な研究目的や繁殖プログラムを提示し、許可を得た人々だけが、この神秘的な生き物の生態を研究できます。
また、ヤンバルテナガコガネの保護活動も行われています。昭和60年に、ヤンバルテナガコガネは国の天然記念物に認定されました。生息地の一部は那覇岳天然保護区域に指定されましたが、単に保護地域に指定するだけでは十分ではありません。
ヒメテナガコガネ属、クモテナガコガネ属、テナガコガネ属など、ヤンバルテナガコガネを脅かす特定外来生物が指定され、ヤンバルテナガコガネの安全を守るための対策が講じられました。また、平成9年には文部科学省、環境省、農林水産省による保護増植事業計画が実施されました。この計画では、まず幼虫が成長するために必要な大きな木を把握することが最優先されました。ヤンバルテナガコガネがどの木に産卵し、羽化するのかを理解することで、より効果的な保護が可能になります。このほか、ヤンバルテナガコガネを守るためのパトロール活動も行われています。ペットとして販売するために密猟する人々を取り締まるためのパトロールも含まれます。
ヤンバルテナガコガネは、様々な方法で絶滅から守られています。その保護には、多くの人々の協力と努力が必要です。
まとめ
ヤンバルには、多様な生物が生息していますが、その中でもヤンバルテナガコガネは非常に珍しく、未だに謎に包まれている生き物の一つです。
ヤンバルテナガコガネは、発見が遅れ、その生息数も非常に少ないことから、これまで研究対象としては極めて困難な存在となっています。
人間による森林伐採が進んだことで、ヤンバルテナガコガネの生息自体が脅かされるようになりました。しかし、現在ではヤンバルテナガコガネを保護するためのプログラムが実施されており、その存在を守るための活動が行われています。
ヤンバルでヤンバルテナガコガネを見かけた場合には、その生き物を傷つけたりせずに、そっと見守ることが大切です。ヤンバルテナガコガネは、貴重な生き物であり、その生態についての研究や保護に多大な意義があるため、私たちがその存在を守ることが重要です。